大阪高等裁判所 平成3年(行コ)16号 判決 1992年4月28日
控訴人
小林由美子
右訴訟代理人弁護士
羽柴修
同
野田底吾
同
古殿宣敬
同
本上博丈
同
西田雅年
被控訴人
加古川労働基準監督署長
和泉信一
右指定代理人
石田裕一
外四名
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人が控訴人に対し昭和五九年一二月一日付でした労働者災害補償保険法による遺族補償給付の不支給処分を取り消す。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一 申立て
一 控訴人
主文同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 主張
当事者双方の主張は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一 原判決の補正
1 原判決二枚目裏一行目の「二七日」を「二六日」と改める。
2 同三枚目表五行目の「八時」を「七時」と改める。
3 同四枚目裏九行目の「八時」を「七時」と改める。
4 同九枚目表四行目の「二七日」を「二六日」と改める。
二 控訴人の主張
1 明らかに事業主本来の業務と認められる以外の業務に起因する災害は、社会保障的原理から業務上災害と認定されるべきである。健二が従事していた熟成作業は午後三時に終了するというものではなく、終日作業ともいうべきものであり、この作業はすべて労災保険により保護される業務の範囲に含めるべきである。
2 脳動脈瘤の増悪・破裂の原因として肉体的労働、精神的緊張等に起因する一過性の血圧亢進が考えられることは、医学的にも、判例上も認められている。健二の行っていた作業はいずれも重筋労働の性質を有し、外気温と二〇度近い温度差のある保存室への頻繁な出入り、深夜までのバナナ管理作業、休日なしの連続勤務への従事は基礎疾病たる高血圧症の増悪を招き、ひいては脳動脈瘤の増悪をも招いていたと考えられる。したがって、健二の右業務が本件発症の共働原因であったと認めるべきである。
3 半田・西川論文(<書証番号略>)によれば、高血圧症の基礎疾病を有する場合、正常者に比べて種々のストレス負荷が益々血圧を上昇させ、脳卒中発症の引金となる蓋然性が高いのである。
三 被控訴人の主張
1 健二の従事した業務のうち、「早朝の配達業務から午後三時ころまでのバナナの熟成加工作業、搬入作業までを基準とし、これに通常認められる超過勤務を加えた程度の業務」を労災保険の適用範囲とする原審の判断は妥当である。
2 継続的な精神的、肉体的疲労が、くも膜下出血を発症させる原因となるとの控訴人の主張は根拠がない。
第三 証拠<省略>
理由
一本件判断の前提となる事実関係の認定は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決一一枚目裏二行目冒頭から同一六枚目表四行目末尾までの理由説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決一一枚目裏九行目の「二号証、」の次に「第五号証の二〇、」を、同一〇行目の「七七、」の次に「第七号証、」をそれぞれ加え、同末行の「大崎信一郎」を「大崎進一郎」と改める。
2 同一二枚目表一〇、一一行目の「賄うようになった。」を「賄うようになり、わずかに、バナナの小売店への配達のために午前七時三〇分から同九月三〇分までの間、週一、二回程度男性労働者を、又伝票整理等の事務のために午前八時三〇分から同一二時までの間健二の弟の妻を雇用していたにすぎなかった。」と改める。
3 同一二枚目裏三行目冒頭の「ラム」の次に「。箱自体はこれとは別に二キログラム前後の重量がある。」を、同七行目の「用いて」の次に「その入口前まで運搬し、保存室内へは一箱ずつ両手で抱えて」をそれぞれ加える。
4 同一三枚目表九行目の「保存室」を「保存中」と改め、同一一行目の「註文」の次に「の予測」を加える。
5 同一三枚目裏八行目の「八時」を「七時」と、同一〇行目の「土曜日には知人に」を「土曜日等には知人に一部」とそれぞれ改める。
6 同一四枚目表六行目末尾の次に「月別に見ると、一年中で四月ないし八月の盆ころまでが一番入荷が多い時期に当たる。」を加え、同一一行目の「午後五時」から同行末尾までを「早いときで午後三時過ぎ、バナナの入荷があるときは午後五、六時ころであった。」と改める。
7 同一五枚目表四、五行目を「当時外気温は最高三一度近くまで上がる真夏日で、保存室の室温はバナナの搬入直前から一三度に予め冷却していた。健二は、夏期中は上半身裸か又はランニングシャツ一枚の服装で搬入作業をするが、当日も同様の格好で作業に当たった。保存室への搬入作業は、同室の入口までソロバンで運搬した七〇箱を一つずつ室外から両手で抱えて室内に運び入れて積み上げる動作を頻繁に繰り返すのであるが、室温を一三度に保つための冷房機からの一〇度以下の冷風に曝されながらの作業であり、室外の高温環境との間の七〇回以上の往復を急いで行う必要がある。」と、同七行目の「三〇分傾、」を「三〇分頃、」とそれぞれ改め、同一二行目の「入院させたが」の次に「(入院時の血圧は二一〇―一〇〇であった。)」を加える。
8 同一六枚目表三行目の「発症前」から同四行目末尾までを次のとおり改める。
「健二は、発症数年前から体のだるさや疲労を妻に訴えていて、『朝起きにくくなった。起きたときタバコ一本では目が覚めなくなり、二本も三本も吸うようになった。』などと言い、友人にも『しんどい』とよく話していた。妻がバナナの熟成加工作業を止めるように勧めても健二は仕事を止めようとはしなかった。
健二は、発症の二日ほど前に加西市でバナナを配達中、頭痛を訴えて配達先の店の主人より頭痛薬をもらい服用した。発症当日の午後三時ころ妻から仕事のことで電話してきたのに対し、疲れているのにつまらないことで電話するなと怒り、普段温厚な性格であるのに苛立っている様子であった。」
二1 右事実によると、健二は労災保険法二七条一号の特別加入者と認められるところ、同人の死亡が業務上のものか否かについては、労働基準法七九条の業務上外の判断に準じるとされているとともに(労災保険法一二条の八第二項、二八条一項)、労災保険法第四章の二(特別加入)に定めるもののほか業務上外の認定は労働省労働基準局長の定める基準(通達)によると規定されている(同法三一条、同法施行規則四六条の二六)。
そして、労基法上の業務上外の判断においては、業務と死亡との間に相当因果関係が認められることが必要であり、相当因果関係の判断に当っては、業務遂行性と業務起因性の二つの要件を満たすことが必要であると解される。
2 ところで労災保険は、本来労働者の業務災害に対する補償を目的とし、中小企業主等の業務災害は保護の対象としていないが、特別加入制度は、これらの者の業務の実情、災害の発生状況等から見て、実質的に労基法適用労働者に準じて保護することがふさわしい者に対し、労災保険を適用しようとするものである。したがって、特別加入者の被った災害が業務災害として保護される場合の業務の範囲は、あくまで労働者の行う業務に準じた業務の範囲であり、特別加入者の行うすべての業務に対して保護を与える趣旨ではない。控訴人は、特別加入制度は社会保障的原理に基づくものであると主張するが(控訴人の原審における反論2、当審における主張1)、独自の主張であって採用できない。また、特別加入者の業務内容は労働者の場合と異なり、労働契約に基づく他人の指揮命令により他律的に決まるのではなく、当人自身の判断によって主観的に決せられる場合が多く、通常その業務の範囲を確定することは困難である。
そこで右基準(通達)は、業務遂行性を労働者の行う業務に準じた労務の範囲に限定し又その業務の範囲を明確にするべく、その業務上外の認定は、特別加入申請書記載の業務内容を基礎とし、原判決添付別紙(二)「中小事業主等の特別加入者の業務災害の認定基準」に従って行うこととして、業務遂行性についての具体的な規定を置いている。他方右基準(通達)は、業務起因性については「労働者の場合に準ずる」とする規定を置くだけである(昭五〇・一一・一四基発第六七一号、昭五二・三・二八基発第一七〇号)。
三これを前提として、まず本件における業務遂行性について検討する。
1 健二が昭和五二年四月一五日に兵庫労働基準局長に提出した特別加入申請書の業務の内容欄には「午前八時から午後五時まで、バナナの熟成加工作業に従事、運送等にも従事する。」との記載がある(<書証番号略>)。他方、健二が日常行っていた業務の内容は、先に認定したとおりであり、その間に食い違いがある。
健二が昭和五七年ころ以前に従業員を使用していた当時の従業員勤務時間は通常は午前七時ころから午後三時ころまでで、三、四日毎にバナナが入荷したときには午後五、六時ころまで勤務していたのであり(控訴人本人尋問の結果(第一回))、また、大崎進一郎が他のバナナ加工会社に昭和六一年まで勤務していたころの勤務時間は、夏期が午前五時ころから午後三時ころまでで、冬期は午前六時ころからであった(同証人の証言)。
2 これからすると、健二が右申請書を右のように記載したのは、その記載を前提として労災保険給付決定における業務遂行性の判断がなされることを十分考慮しなかったためであって、特別加入申請者に申請書に業務内容を記載させる趣旨は、業務上外の認定の資料とし判定上の便宜を図ろうとするものにすぎないから、裁判所が判断するに当っては右申請書の記載を基礎としつつも必ずしもこれのみに拘束されることなく、実情をも考慮し当該制度の趣旨に副って特に就業時間については右申請書とは異なる認定をすることも許されるものと解される。また右申請書記載の時間以前における業務は、原判決添付別紙(二)の(3)の「就業時間(時間外労働を含む。)に接続して行われる準備・後始末の業務を特別加入者のみで行う場合」に該当すると解することもできる。
3 そこで、前記一認定の健二の業務内容、従業員の勤務時間等を総合考慮すると、健二の従事した業務の内、午前五時半過ぎからの午前中のバナナの配達業務、及び午後一時半ころから三時ころまでの午後のバナナ熟成加工作業、搬入作業を基本とし、これに雇用労働者により通常行われていた時間外及び休日の勤務を加えた業務について、業務遂行性を認めるのが相当である。したがって、右の範囲内の業務について、死亡との間に相当因果関係があるか否か、又死亡を惹起するに足りる種々の有害因子に遭遇する危険に曝されていたか否かを判断することとなる。
四次に、前記の業務遂行性の認められる業務と健二の死亡との間の相当因果関係(業務起因性)について検討する。
1 健二の死亡はくも膜下出血によるものであることは当事者間に争いがないところ、死亡が業務上のものというためには、死を惹起したくも膜下出血と健二の右業務との間に相当因果関係があることが必要であり、またこれがあれば足りる。
ところで、<書証番号略>によれば、くも膜下出血はその大部分が、先天的又は後天的に形成された脳動脈瘤が破裂すること等によりくも膜下腔に出血して起こる病態であり、その発生の基盤となる病変を準備する決定的な要因として高血圧があげられているが、精神的・肉体的な過重負荷が加わると急激な血圧変動や血管収縮を引き起こし、脳動脈瘤等の基礎疾患を著しく増悪させて自然経過を超えて急激にくも膜下出血が発症する場合があることが認められる。
そして、くも膜下出血と業務との間に相当因果関係があるというためには当該業務がくも膜下出血の最も有力な原因であることまでは必要でなく、他に高血圧症や脳動脈瘤等の基礎疾患があり、これらが競合し、共働する有力な原因となっている場合であっても、業務の遂行が精神的、肉体的に過重負荷となり、右基礎疾患をその自然的経過を超えて増悪させてその死亡時期を著しく早めるなど、業務が当該疾病の相対的に有力な原因であると認められれば足りるのであって、それは当該業務が経験則に照らして当該疾病を生じさせる危険があったかどうかによって判断すべきであると考えられる。
2 そこで、前記一の事実を前提として、健二の基礎疾患、基礎疾患の増悪と労働内容との関係等について検討する。
(一) 前記一の認定によれば、健二は、昭和四一、二年ころ頻脈発作を起こして治療を受け、昭和四五年ころ高血圧症、WPW症候群、心室中隔欠損と診断されて降圧剤の投薬治療を受けたが、薬剤の影響により仕事が捗らないとしてその治療を中止し、その後食事に関して、血圧に深い関係のある塩分の摂取を制限するなどの注意も全くせず、自他ともに健康体であると過信して検診等も受けたことがなかったので、死亡に至るまで高血圧症の疾患が持続していたものと認められる。また、健二は発症数年前から体のだるさや疲労を訴えていたところ、発症の二日ほど前には頭痛を訴えて配達先から頭痛薬をもらって服用し、発症直前には疲れて苛立っている様子であったというのである。ところで、くも膜下出血の原因の大部分を占める脳動脈瘤破裂を来した症例の約半数の症例において、はっきりとした破裂を生ずる数日から数か月前、多くは三週間以内に、動脈瘤増大のための周囲神経組織の圧迫や小出血による頭痛・眼球運動障害等からなる警告症状が出現するといわれ(<書証番号略>)、脳神経外科医である山口三千夫の証言を合せ考えると、健二の発症前後の経過に照らして、二日前の頭痛は警告症状であったと認めるのが自然である。また、右警告症状の発現した時期に外科的療法等を行えば予後が非常に良いことが多いと認められる(<書証番号略>)。
(二) 前記一の認定によれば、健二の、毎日午前中数時間かけて行われる数十箱のバナナの搬出・配達業務、三、四日に一度二、三時間かけて行われる一〇〇箱ないし二〇〇余箱のバナナの保存室及び地下加工室への搬入・積上業務、ほぼ毎日行われる保存室から加工室への数十箱のバナナの移動業務は、その業務の大部分が一箱十数キログラムの重さの多量のバナナを運搬し積み上げる重筋労働であって、その内の積上業務は一六〇センチメートルの高さまでバナナの箱をれんが積みする肉体的負担の大きい業務であったこと、また外気温が三〇度を超える夏期における一三度に冷却した保存室へ頻繁な出入りを繰り返す搬入・搬出業務、寒冷な冬期における二三度ないし二六度に加熱した加工室への頻繁な搬入・搬出業務は生体に急激な気温の変化を与える負荷の大きい業務であったこと、バナナの熟成加工作業は微妙な温度調節を必要とし、酸欠状態に晒される危険を伴うので精神的な負荷を伴う業務であったこと、健二はこれらの業務遂行性の認められる業務をほとんど一人で行っていたほか、右業務以外にも年中休むことなく午後一〇時ころまでバナナの熟成加工作業に長時間従事していて、その合間には正午から午後一時半ころまでと夕方に控訴人経営の喫茶店の手伝いをしていたこと、ただし、業務遂行性の認められない右各業務はそれ自体は日常生活とほとんど変わらない軽い作業であって、生体への負荷が問題となるような性質のものではないことが認められる。
健二の行っていた業務の内業務遂行性の認められるのは前記のとおりその全部ではないので、雇用労働者と同様に時間外・休日勤務のない休日等に休養をとっていたとすれば健二としてもある程度の疲労の回復が期待できたはずであるから、前記(一)において健二に日頃蓄積されていたと認められる疲労の全部と、業務遂行性の認められる業務との間に直ちに相当因果関係があるとはいいがたい。しかし、急激な温度変化が血圧変動や血管収縮に相当大きく関与していること(<書証番号略>)、心身のストレス、過労や重筋労働があると血圧が上がるといわれていること(<書証番号略>、証人山口三千夫の証言)からすると、前記業務遂行性の認められる業務自体が一般人から見ても相当に負担の重い業務であったというだけではなく、特に高血圧症や脳動脈瘤の基礎疾患のある健二にとって、右のような重筋労働、特に急激な気温の変化を伴う業務は、同人の基礎疾患の増悪に軽視することのできない影響を及ぼしたものと推認することができる。
(三) 前記一の認定によれば、バナナの入荷量は毎年四月ころから八月の盆ころまでが一番多く、室温と外気温の温度差の激しい夏期と冬期、その中でも特に夏期の業務が一年中で一番体に負担が大きいところ(証人大崎進一郎の証言、控訴人本人尋問の結果)、昭和五九年八月中はほとんど真夏日が続き死亡直前ころ健二には疲労が蓄積していたと考えられること、しかも健二は、発症当日は夏場の高温作業場所と冷却された保存室との間を、上半身裸体又はランニングシャツ一枚という服装で七〇回以上も頻繁に往復して、室温を一三度に保つための冷房機からの一〇度以下の冷風に曝されながらの作業を完了しているが、健二はこのようなバナナの搬入作業を七月以降一四回も繰り返しており、搬入作業がない日も、右と同様な負担の重い保存室から加工室への数十箱の移動作業をほぼ毎日のように行っていたこと、健二は発症の二日ほど前にはくも膜下出血の警告症状とみられる頭痛が発現していて、このとき直ちに外科的療法等の治療を行えば予後が非常に良いことが多いにもかかわらず、健二は何らの治療を受けることなく、頭痛等の体調の不調を押して業務を継続していたところ、発症当日のバナナの搬入作業を終了した直後にくも膜下出血を発症して死亡するに至ったことが認められる。
なお、健二が発症した昭和五九年八月二五日は土曜日であり、健二が雇用労働者と同様に一九日の日曜日に休養をとっていたとしても以後六日間の連続勤務となり、警告症状の発現している健二にとって基礎疾患への悪影響は避けられないので、業務遂行性を考慮に入れても業務起因性判断の結果に差異は生じないと考えられる。また、健二が死亡した久野病院で健二を死亡直前に診察した北島薫医師は、高砂労働基準監督署長からの依頼に対し業務との関係について、「今回の発病は業務の為低温室にいて、夏期の高い室温に戻った直後に起こっており、急激な温度変化が血管破綻の誘因になった可能性は否定できない。」との意見書(<書証番号略>)を提出している。
(四) 以上を総合して判断するに、業務遂行性の認められる業務によって健二に日頃から蓄積された疲労のすべてがくも膜下出血による死亡に結びついたとは認めがたいが、右業務自体が、一般人から見ても相当に重い業務であっただけではなく、高血圧症や脳動脈瘤等の基礎疾患のある健二にとって、右のような重筋労働、急激な気温の変化を伴う業務は、長期間にわたり同人の基礎疾患の増悪に軽視することのできない影響を及ぼしたと推認することができるのみならず、発症前の昭和五九年夏の高温下での又温度格差のある作業環境での業務は一層の大きな影響を与え、更にくも膜下出血の警告症状が発現した後の業務特に急激な温度変化に曝されての搬入作業は健二の血圧を急激に上昇させて、その基礎疾患たる脳動脈瘤等に決定的な打撃を与え、くも膜下出血を発症せしめたものと認めるのが相当である。したがって、業務遂行性の認められる業務が健二にとって精神的、肉体的に過重負荷となり、その基礎疾患をその自然的経過を超えて増悪させてその死亡時期を著しく早めたもので、右業務がくも膜下出血の相対的に有力な原因になったと認められるから、右業務と同人のくも膜下出血による死亡との間には、相当因果関係が存するものというべきである。
五以上によれば、健二の死亡は業務上の事由によるのではないとしてなされた本件処分は違法というべきであるから、その取消しを求める控訴人の本件請求は理由がある。よって、控訴人の被控訴人に対する本訴請求を棄却した原判決は不当であるから、これを取り消し、控訴人の右請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官吉田秀文 裁判官鏑木重明 裁判官坂本倫城は填補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官吉田秀文)